浜羽二重とはどんな絹織物か?
浜羽二重とは五鈴屋のオリジナルブランド
NHKBS時代劇「あきない世傳(せいでん) 金と銀2」では「浜羽二重(はまはぶたえ)」という種類の絹織物が、ドラマのキーアイテムとして登場します。
「浜羽二重」の「浜」とは江州(ごうしゅう)(近江国・現在の滋賀県)の波村(はむら)のことで、羽二重とは光沢がありしなやかな白い絹織物のことを指します。
惣次(加藤シゲアキ)こと五代目徳兵衛が五鈴屋の当主であったときに企画した、五鈴屋オリジナルブランドの反物です。
五鈴屋の浜羽二重をやっかむ真澄屋
五鈴屋が正月の初売りとして売り出した浜羽二重は、あっという間に用意した五百反が売り切れるほど評判の良い反物です。
あまりの売れ行きに同業者がやっかんで、五鈴屋は、大坂天満呉服仲間の真澄屋の手代が横領した羽二重を販売したのではないかと疑いをかけられたほどです。
江戸時代における羽二重の作り方
浜羽二重の作り方を見に行く幸
小説版「あきない世傳(せいでん)金と銀」(四)貫流篇を読むと、主人公・幸(小芝風花)は、「浜羽二重が糸から作られるところが見たい」と江州波村まで出張しています。
そこで今回では江戸時代の羽二重という種類の絹織物が、どのような工程を経て完成していたのか紹介をします。
1. 蚕の育成と繭の形成
蚕の飼育
- 蚕は桑の葉を食べて成長します。
- 約1か月で成長し、約4齢から5齢(幼虫の成長段階)の終わりに繭を作り始めます。
繭の形成
- 成熟した蚕は口から絹糸(フィブロインとセリシン)を吐き出しながら繭を作ります。
- 繭を作るには2~3日かかり、1匹の蚕が約1,000~1,500メートルの絹糸を吐き続けます。
- 繭の中で蛹(さなぎ)になり、やがて成虫になりますが、繭を採るために多くの場合、蛹の段階で処理されます。
2. 繭から生糸(きいと)を作る
繭の乾燥
- 繭を乾燥させ、内部の蛹が成虫にならないようにします。
- 乾燥させることで繊維の品質を保ちます。
繭の煮沸(煮繭:しゃけん)
- 熱湯で煮ることで、繭の表面の「セリシン」(接着剤のような役割をするタンパク質)を柔らかくし、糸を引き出しやすくします。
糸繰り(製糸)
- 繭から糸を引き出し、数本の繊維を合わせて1本の生糸(きいと)にします。
- こうしてできた生糸は光沢があり、絹織物の元となります。
3. 羽二重の織布(しょくふ)
羽二重の特徴は、経糸(たていと)に撚りをかけず、緯糸(よこいと)にわずかに撚りをかけて織ることです。
整経(せいけい)
- 経糸を並べて一定の張力を与えます。
- 羽二重では、経糸を強く張りながら撚りをかけない(無撚糸)ことが重要です。
織布(しょくふ)
- 平織り(ひらおり)という基本的な織り方で織ります。
- 高機(たかはた)と呼ばれる横木に腰をかけることができる織機を操ることによって織ります。
- 無撚糸の経糸が整然と並び、なめらかで光沢のある生地になります。
3. 精練(せいれん)
羽二重には、特に滑らかで光沢があることが求められます。
精練(せいれん)
- 生糸にはセリシンがまだ付いているためセリシンを取り除くため、繰り返し湯水に晒します。
- 現代であればアルカリ溶液を使うことも可能ですが、江戸時代では手間をかけて湯水に晒すしか方法がありませんでした。
5. 仕上げ加工(仕上げ整理)
織り上がった生地は、最終的な仕上げ工程を経て羽二重らしい特性を持つようになります。
染色・仕上げ
- 白生地のまま使う場合もありますが、染色する場合は草木染めで染めます。
- 仕上げに湯のし(蒸気で布を整える作業)を行い、光沢と滑らかさを引き出します。
現代における羽二重の加工方法
自動織機やAIを取り入れた加工
現代では、羽二重の織布の過程は、自動織機や精密な管理技術を用いることで、大量生産が可能になっています。ただし、伝統的な手織りの技術も一部の高級織物では継承されています。以下、一般的な現代の織布の過程を説明します。
1. 原材料の準備
繭から生糸(きいと)を作る
- 繭の乾燥・煮繭(しゃけん):繭を乾燥させ、熱湯で煮ることで、表面の「セリシン」を柔らかくする。
- 糸繰り(製糸):繭から生糸を引き出し、複数の繊維を撚り合わせて1本の生糸にする。
精練(せいれん)
- 生糸には「セリシン」というタンパク質が付いており、そのままでは硬くて加工しにくい。
- アルカリ溶液や石鹸を使って煮ることでセリシンを取り除き、絹特有の光沢と柔らかさを出す。
2. 織布(しょくふ)工程
現代では、シャトルレス織機(エアジェット織機・ウォータージェット織機)が主流で、効率的に羽二重の生地を織ることができます。
整経(せいけい)
- 経糸(たていと)を自動整経機で並べる
- 羽二重は経糸に撚りをかけない(無撚糸)。
- 経糸を長く均等に配置し、張力を調整する。
織布(しょくふ)
- エアジェット織機・ウォータージェット織機で自動織布
- エアジェット織機(空気圧を利用)やウォータージェット織機(水の力を利用)を使い、緯糸を高速で通す。
- 無撚の経糸と、わずかに撚りをかけた緯糸で平織りにする。
自動制御と品質管理
- センサーやAI技術を活用し、糸の張力や織り密度をリアルタイムで管理。
- これにより、安定した品質の羽二重が大量に生産できる。
3. 仕上げ加工
再精練(仕上げ)
- 織り上がった布にはまだセリシンや不純物が残っているため、再度**湯洗い(熱湯で洗浄)**して取り除く。
- この工程によって、羽二重特有の「しなやかさ」と「光沢」がさらに強調される。
染色・整理加工
- 羽二重は白生地のまま使われることもあるが、化学染料や天然染料で染色されることもある。
- 仕上げに湯のし(蒸気処理)を行い、生地を均一になめらかに整える。
仕上げ検査とカット
- 織りムラや傷がないか検査し、必要に応じて補修。
- ロール状に巻いて出荷するか、着物用に反物サイズにカットする。
こうして作られた羽二重は、光沢が美しく、軽くて滑らかな絹織物になります。羽二重は着物の裏地、帯、小物、さらにはパラシュートの生地などにも使用される高級絹織物です。