五鈴屋の商売について
「五鈴屋」は「古着屋」からスタート
NHKのBS時代劇「あきない世傳(せいでん)金と銀2」に登場する、大坂天満の五鈴屋は、天満の呉服仲間に所属するれっきとした呉服商で、当代は六代目徳兵衛こと智蔵です。
ですが五鈴屋の創業者では、初代徳兵衛は伊勢出身で「古手の振り売り」を始めたことから商売をスタートさせています。この「古手の振り売り」とは、古着を天秤棒で担いで行商をする業態のことです。
二代目の途中から「呉服商」に業態転換
「古手の振り売り」からスタートした初代徳兵衛は、1684(貞享元)年に大坂天満の裏店で暖簾を掲げることに成功し、これを持って「五鈴屋」の創業としています。
二代目徳兵衛こと萬作・富久夫妻は「古手商」である「五鈴屋」を引き継ぎ、のちに呉服商へと業態を転換します。その後三代目徳兵衛こと栄作、四代目徳兵衛こと豊作、五代目徳兵衛こと惣次と引き継がれ、六代目徳兵衛の智蔵に至っています。
消費とリサイクル 現代と江戸時代の感覚
現代の日本では「服は消費するもの」
「古手商」を今の言い方に直すと「服のリサイクルショップ」ということになります。確かに現代でもそういったお店は存在しますし、何であれば「ジーンズのビンテージショップ」と言うように一部マニアのための高級品というイメージさえあります。
現代の日本では、「ユニクロ」や「しまむら」などのファーストファッションが一定のニーズを担っているように「服を消費する」と言う考え方が、かなり浸透しています。
江戸時代の「着物はリサイクルするもの」
しかし「あきない世傳(せいでん)金と銀2」の時代となる江戸時代では、人口の大半を占めた多くの庶民にとって服とは「消費するもの」ではなく、「リサイクルするもの」として捉えられていました。
現代人が「ユニクロ」や「しまむら」で服を買うような感覚で、江戸時代の庶民の間には「古手商」が扱う古着を求めていたと考えられます
よって五鈴屋の初代徳兵衛が商いを始めるにあたって、「値は張らなくてもニーズの大きい古着」に目を付けて「振り売り」を始めたことは、決して特殊な例ではなかったと言えるでしょう。
江戸時代のリサイクル
「リサイクル業」が上位を占めた江戸の商売
さらに「リサイクル」と言うキーワードに焦点を当てると、江戸時代は現代よりもかなりの割合で、生活必需品がリサイクルされていたと考えられています。
「大江戸商い白書――数量分析が解き明かす商人の真実 (講談社選書メチエ 602)」の152ページと153ページによると、1774(安永3)年に町年寄・喜多村彦右衛門が調査した江戸における商人の合計数とその業種別の人数が紹介されています。
その調査によると、全66業種で17,043人の人数が記されていおり、その上位5番目までに4つのリサイクル関係の業種(太字部分)が占めています。
- 古道具屋: 3,843人
- 古着買: 2,043人
- 質屋: 1,752人
- 古着屋: 1,541人
- 古鉄屋: 1,216人
では五鈴屋の初代徳兵衛が始めた「古手の振り売り」以外にもどのような「リサイクルショップ」があったのでしょうか?
江戸時代のリサイクルショップ
紙屑買い(かみくずひろい)
古くなった帳簿や書き損じの紙を買い取る商売。買い取った紙は選り分けたあと、専門の漉き返し屋へ売られて再生する。
「ちり紙交換」の元祖とも呼ばれる存在で、必要に応じて古着や古銅を買い取ることもあったと言われています。
隠密同心や岡っ引きも「紙屑買い」に変装した
「リサイクルショップ」がありふれた存在であったことに目を付けたのは、何も商人ばかりではありません。町奉行所に仕える隠密同心や岡っ引きたちも「紙屑買い」に目をつけていました。
彼らは江戸の町中では当たり前のような存在であることを利用して、内偵捜査などをするときには、身なりを「紙屑買い」に装って容疑者の身辺を探っていたと考えられます。
へんてつ屋
舞や猿楽で使う衣装・古い錦繍・更紗などのはぎれを扱う。はぎれは主に表具の修理や茶道具を入れる袋に使われる。
蝋燭流れ買い(ろうそくながれがい)
溶けて流れ出た蝋を買い集める商売。武家屋敷や表通りの大店の灯りとして使われた蝋燭は高価なもので、燃え尽きた後も利用されるものでした。
古椀買い(ふるわんがい)
使い古した汁椀を買い取る商売。塗りのハゲが著しいものは塗り直して売り出すが、修理せずにそのまま古物市に出されることも。
灰買い(はいがい)
台所で炊事のために薪を燃やした後に出るかまどの灰を買い取る商売。都市部で集めた灰は問屋に集められ、農村部に肥料として売っていたそうです。
献残屋(けんざんや)
未使用の贈答品を買い取る商売。武家だけでなく町人の間でも、不要な献上品は売り払われ必要な人が買い取っていったそうです。
樽買い(たるかい)
酒や醤油が入っていた空の樽を買い取り、空樽問屋に売る商売です。問屋が買い取った空の樽は、酒や醤油の製造元に販売されます。
古傘買い(ふるがさがい)
傘に貼られていた紙が破れたり、骨が折れて使い物にならなくなった傘を買い取る商売です。集めた古傘は傘屋が引き取り、紙をきれいに張り替えて再度売り物にします。傘に貼られていた紙が破れたり、骨が折れて使い物になら