あきない世傳金と銀2のお杉とは
お杉は元・五鈴屋の女衆
NHKBS/BSプレミアム4Kで2025年4月6日から放送される「あきない世傳(せいでん)金と銀2」の江戸編に登場する人物として、大西礼芳さんが扮するお杉(おすぎ)という女性がいます。
お梅は五鈴屋で奉公したことがある元・女衆です。第1シリーズの「あきない世傳 金と銀」では五鈴屋の惣次(加藤シゲアキ)こと五代目徳兵衛に対して密かに恋心を抱いていました。
惣次を追って姿を消すお杉
惣次が浜羽二重の産地である江州波村の人たちと、商売上のトラブルを起こしたことの責任をとって隠居をして姿を消したことを知って、お杉も惣次の後を追うように五鈴屋からいなくなります。
第1シリーズの「あきない世傳 金と銀」の最終回「店主の器」では、同僚の女衆であるお竹(いしのようこ)とお梅(内藤理沙)がお杉を探しますが、全く見当たりません。
しかしNHKの発表によると、第2シリーズの「あきない世傳 金と銀2」では、そのお杉が江戸に姿を現すというのです。
なお、お杉はドラマ版「あきない世傳 金と銀」のみのオリジナルキャラクターです。小説版の「あきない世傳 金と銀」シリーズには登場しない人物なので、原作小説を読んでいてもお杉はこの先どうなるか全く分かりません。
移動と定住 現代と江戸時代の比較
大坂から江戸への移動・定住は容易でなかった
このようにお杉は大坂から江戸に居を移したようです。ただ疑問が残るのはお杉は大坂から江戸へどうやって移動したかです。
歩いて移動する必要があるという交通手段のことではなく、江戸時代は移動そのものが厳しく制限されていたことです。
日本国憲法が保障する「居住、移転及び職業選択の自由」
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
日本国憲法 e-gov より
現代では日本国憲法第22条が示すように、原則として誰がどこに引っ越して定住しようが、公権力から制限されることはありません。
日本国民が日本において移転や居住の自由が制限される場合は、裁判によって懲役刑・禁固刑などの刑事処分が科された時や、感染症法や災害対策基本法に基づく一時的な立入制限・避難命令の場合に限ります。
お杉はどうやって江戸に住まうことが許されたのか?
移動・定住の自由はない江戸時代
しかし「あきない世傳 金と銀」シリーズの時代背景となった江戸時代は、現代と違って江戸幕府という当時の公権力が、人々の移動や定住について介入をします。
ある人が大坂から江戸に住まいを移すのであれば、「町方人別帳」に名前を登録する必要があります。江戸は厳格な人口管理が行われていたため、自由に移住することは容易ではなく、一定の手続きが求められました。
1. 町方人別帳に登録するための基本条件
江戸に移住し、町方人別帳に載るためには、以下の条件を満たす必要がありました。
江戸の町人地に住むこと
- 武家地や寺社地ではなく、町人地に家を持つか、長屋を借りる必要がある。
- 身元が確かでなければ、正式に町方人別帳に登録されない。
職業を持っていること
- 商人・職人・医者・芸人など、江戸の町人として生計を立てる手段があることが求められた。
- 無職や流浪人は江戸の管理体制の中では危険視され、登録が難しかった。
身元保証人を用意する
- 江戸にいる町人の保証人(住んでいる町内の有力者、名主など)を得ることが必要。
- 過去に犯罪歴がなく、素行が良いことが証明されなければならなかった。
2. 具体的な移住手続き
住む場所の確保
- 江戸の町人地に家を借りるか、長屋に入居する。
- 長屋の場合は、大家が町名主と連携して入居者を管理するため、大家が「身元保証人」となることもあった。
町役人への届け出
- 江戸に移住したら、住む町の町名主に「人別帳への登録」を願い出る。
- 町名主は新規住民の身元を確認し、問題がなければ町方人別帳に記載。
宗門人別帳への登録
- 町方人別帳と同時に檀家(菩提寺)を決め、宗門人別帳にも登録する必要があった。
- これはキリスト教禁止(宗門改め)の一環として必須の手続きだった。
出身地の記録
- 町方人別帳には、「どこから来たのか(出身地)」が記録される。
- 大坂や京都など、移住前の居住地が明記されることが一般的。
3. 町方人別帳に載せてもらえないケース
町方人別帳に登録されるためには、上記の手続きをクリアする必要がありましたが、以下のような人々は登録を拒否されることがありました。
- 無職で生活の安定が見込めない者
- 前科がある、または素性が不明な者
- 遊女・水商売関係者(公的には登録されにくい)
- 身元保証人がいない者
- 浪人(町方ではなく武家地に住む必要がある)
このように、江戸に住むためには厳格な条件があり、「誰でも自由に住める都市」ではなかったのです。
箱根や碓氷の関所はどうやって越えたのか?
冒頭でお杉は「五鈴屋から忽然と姿を消して江戸に現れる」と述べました。しかしお杉は突然姿を消しただけあって主家である五鈴屋からの「身元証明書」をもらっていないはずです。
身元証明がない以上、江戸の町役人や長屋の大家たちはお杉が江戸に住まうことを歓迎しなかったはずです。
さらにいうと江戸にたどり着くために通らなければならない、東海道の箱根や中山道の碓氷の関所を通るための通行手形を、お杉はどうやって手に入れたのでしょうか?
お杉の場合、通行手形は大坂の町奉行所から町役人を通して交付されるものですが、そもそもお杉の主家である五鈴屋が口利きをしなければ、町役人も町奉行所も相手にしてくれないはずです。
もろもろの疑問がつきまといますが、お杉の身が安全であることを祈るばかりです。