大岡越前7 小石川養生所と江戸時代の医療事情

oookaechizen_koishikawayoujyousy
目次

大岡越前7と小石川養生所

小石川養生所に来る患者のバックグラウンド

NHK特選時代劇「大岡越前7」とNHKBS時代劇「大岡越前8」には、榊原伊織(勝村政信)という、大岡忠相の友人である医師が登場します。

榊原伊織は江戸幕府が運営する医療施設の小石川養生所(こいしかわようじょうしょ)で働いており、「大岡越前」シリーズの重要な舞台として描かれます。小石川養生所に運び込まれる患者を見ていると、極貧の生活にあえぐ者やすでに容態が重篤な患者ばかりです。

当時の小石川養生所にはどんな患者たちが利用していたのでしょうか?今回の記事ではその小石川養生所と、江戸時代の医療事情について紹介します。

小石川養生所とは

小石川養生所の設立

小石川養生所とは江戸時代中期に幕府が運営した医療救済施設で、貧困層のための無料診療所として機能していました。現代風に言えば、公立病院と福祉施設を兼ねた施設と言えるでしょう。

小石川養生所は八代将軍・徳川吉宗の治世である1712(正徳2年)に以下の3点を目的として設立されました。

  • 貧困に苦しむ江戸庶民の医療救済
  • 疫病の流行を防ぐ公衆衛生対策
  • 医学の発展と研究

小石川養生所の特徴

無料診療

  • 経済的に困窮した人々を対象に、診察・治療・薬の提供を無料で行う

内科中心の治療

  • 主要な治療内容は内科(腹痛・発熱・風邪・栄養失調など)
  • 外科手術はほとんど行われなかった(ただし軽度の処置はあったとされる)

薬草の栽培と研究

  • 小石川薬園(現在の小石川植物園)に隣接しており、そこで栽培した薬草を治療に使用
  • 日本国内だけでなく、中国医学やオランダ医学(蘭学)の影響も受けた

医学教育・研究

  • 町医者(一般の開業医)よりも高度な知識を持つ幕府医師(奥医師)が勤務し、医学の研修も行っていた

労咳(結核)・脚気の対応

  • 症状に応じて漢方薬を使用したが、滋養のある食事を十分に摂らせることは難しかった
  • 脚気の患者を診療していたが、原因(ビタミンB1不足)が分かっていなかったため対症療法のみ

江戸時代における一般庶民の医療

一定の収入がある庶民は小石川養生所にかかれなかった

小石川養生所は無料の医療施設ですが、誰でも利用できたわけではありません。小石川養生所が対象とした患者は、無宿人・失業者・高齢者など経済的に困窮し、かつ町名主から推薦を受けた人たちのみです。

経済的に余裕がある商家だけでなく、裕福ではなくとも一定の収入や保証人が見込めるような人たち、つまり

  • 大工
  • 職人
  • 商家で働く番頭
  • 商家に住み込んでいる手代・丁稚

といった人たちは、小石川養生所の患者となることはできませんでした。もし医師に診察してもらいたければ、自力で町医者にかかる必要がありました。

診察代 + 薬代 = 12万円

2024年9月からNHKBS時代劇「おいち不思議がたり」に登場する町医者・藍野松庵のように「医は仁術」と言う考え方のもと、「ある時払い」や「診察代は無料で薬代の実費分だけをもらう」ような医者もいたとは考えられますが、多くの町医者にとって「医は算術」でした。

つまり当時は「医者にかかる」と言う行為自体が大変お金のかかることだったのです。例えば当時、町医者にかかると、以下の内訳で合計12万円の費用がかかったと考えられます。

  • 診察代: 金一分(約4万円)
  • 7日分の薬代: 金二分(約8万円)

もし医者の自宅と患者の自宅が離れていて、駕籠に乗ってもらって往診を頼むと、さらに一両(16万円)が上乗せされたと言います。

気軽に町医者にかかれなかった江戸時代の庶民たち

長屋に住んでいるような職人1日当たりの日当は銀三匁(6,000円)程度です。

国民皆保険制度が整っている現代日本と違って、江戸時代の庶民は少し風邪をこじらせたとかお腹を下してしまったと言う程度で医者にかかることができませんでした。

多少の体調不良は売薬で乗り切る庶民

では長屋住まいの職人や大工、商家の奉公人たちが、体調不良になったとき、医者にもかからずただ寝ていただけかと言われると決してそうではなかったようです。

朝鮮人参などの高価な薬(国産の人参15グラムあたり一両)は手が出なかったものの、庶民でも手が届く売薬に頼っていたと考えられます。

  • 反魂丹(はんごんたん): 胃腸障害や消化不良などに効果。富山の代表的な和漢薬
  • 和中散(わちゅうさん): 暑気あたりや腹痛、めまい、風邪などに服用
  • 実母散(じつぼさん): 月経不順や更年期障害などの女性特有の症状に効果がある婦人薬
  • 奇応丸(きおうがん): 下痢、食欲不振、神経質などの症状に効果

食事・温泉などの民間療法も活用した庶民

さらに庶民が頼ったのは売薬だけではありません。「江戸暮らしの内側 快適で平和に生きる知恵」の173ページによると、食品を上手く組み合わせた食事療法や、「湯治」と言われる温泉療法も試していたと考えられます。

  • 生姜酒(しょうがしゅ): お腹が痛む時や風邪を引いたときに飲む
  • 芥子(からし): 風邪で鼻詰まりの症状がひどいときに少量食べる
  • 湯治(とうじ): 慢性的な冷え性や関節痛に効用がある
oookaechizen_koishikawayoujyousy

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次