大坂の洒落言葉
畑の羅漢さんとは?
NHKBS時代劇「あきない世傳(せいでん)金と銀2」の前作である「あきない世傳(せいでん)金と銀」の第1話を見ていると、しばしば登場人物たちの口から「畑の羅漢さん」と言うセリフが登場します。
これは「はたけのらかんさん」と読みますが、大坂で使われた洒落言葉の一種です。「はたけのらかん」から「働かない」、「あなたは怠け者だ」と言う意味になります。
尖ったことを丸く伝える大坂商人たち
大坂は「商人の町」である故に、人々は何かしら尖ったことでも丸く伝える習性があります。言いにくいことも笑いで包んで返すと言うのが、「あきない世傳(せいでん)金と銀」に登場する五鈴屋の治兵衛の持論です。
大坂の洒落言葉の例
もちろん大坂の洒落言葉には「畑の羅漢さん」以外にもいくつもあります。
袖口の火事(そでぐちのかじ)
袖に火がついている様子から「手が出せぬ」と言う意味になります。
赤子の行水(あかごのぎょうずい)
赤ん坊で盥(たらい)の中で泣いている様子から「銭が足らいで泣いている」と言う意味。
饂飩屋の釜(うどんやのかま)
「湯ぅばっかり」から「言うばっかり」で「口先だけで手がでない」と言う意味。
腐った貝(くさったかい)
死んでしまった貝は殻が開かなくなることから「死んでも口は割らない。口がかたい」と言う意味に。
江戸の地口遊び
江戸の言葉遊びのルーツ
NHKBS時代劇「あきない世傳(せいでん)金と銀2」は、江戸時代中期の享保年間(1716年〜1736年)、今の大阪〜西宮あたりの阪神地方で物語が始まります。
NHK特選時代劇「あきない世傳(せいでん)金と銀」の原作となった「」と「」を読んでいると、大坂の洒落言葉については「昔から大坂に伝わるささやかな遊び」として描写されていることが分かります。
しかし大坂の洒落言葉のような一種の言葉遊びを、同時代の江戸から観察すると、なぜこういった遊びが発達したのかルーツが分かります。
不景気の中で発達した江戸の言葉遊び
元禄年間(1688年〜1704年)には物価は高騰し庶民の暮らしは困窮し、享保年間には豊作からくる米価の下落で旗本・御家人といった武士たちの暮らしもすっかり苦しくなっていました。
八代将軍・徳川吉宗は人々の消費支出を抑えるために、たびたび「贅沢禁止」と「質素倹約」に関する御触れを出します。これには人々が新規のものを作ったり、従来からある娯楽に興じることを禁止する旨も含まれていたため、そのうさを晴らすために言葉遊びが発達したようです。
地口付けとは
まず登場するのが「地口付け(じぐちづけ)」です。「地口付け」とはことわざや俗語などに同音または音のに通った別の言葉をあてて、違った意味を表す洒落の一種です。
例えば「舌切り雀」と言うお題があれば、参加者が思い思いに「舌切り雀」に関する俗語やことわざを面白おかしく言い換えて、点者(評価者)が点をつけるという具合です。
「地口付け」はやがて点者が最初の五文字を与えて、参加者は残りの七・五文字を答えると言う具合に発展しましたが、博打の要素が出てきてしまい幕府に禁止されてしまいます。
地口遊びとは
そこで「地口付け」の代わりに登場したのが「地口遊び」です。
「地口遊び」とはいわば「語呂合わせ遊び」や「もじり遊び」で、「お金はない」・「贅沢は禁止」・「博打も禁止」という「あれもダメ。これもダメ」と言う中で最後まで残ったのは、会話の中だけでも楽しむという発想でしょう。
地口遊びの例
待ちかね山(まちかねやま)
「待ちかね山(まちかねやま)」とは「待ちかねた」・「待ちわびた」と言う表現をユーモアに変えています。
合点承知の助(がってんしょうちのすけ)
「合点承知の助(がってんしょうちのすけ)」とは「合点」や「了解しました」と言う表現を面白おかしく変えたものです。
そううまくは烏賊の嘴(そううまくはいかのくちばし)
「そううまくは烏賊の嘴(そううまくはいかのくちばし)」は、「そう上手くはいくか!」・「そう上手くは行きませんよ」と言うややきつめの表現を、ユーモアを交えて柔らげています。
呆れがとんぼ返りで礼にくる(あきれがとんぼがえりでれいにくる)
「呆れがとんぼ返りで礼にくる(あきれがとんぼがえりでれいにくる)」は、面白くおかしく言葉を付け足すことで、「呆れる」と言う表現を強調しています。
かたじけ茄子(かたじけなすび)
「かたじけ茄子(かたじけなすび)」とは「かたじけない」と感謝の意を表すときの、ユーモラスを交えて表現です。
これしか中橋(これしかなかばし)
「これしか中橋(これしかなかばし)」とは「これしかない」と言う言葉に、ユーモラスさを加えた表現です。
そこだけは言うてもおくれな小夜嵐(そこだけはいうてもおくれなさよあらし)
「そこだけは言うてもおくれな小夜嵐(そこだけはいうてもおくれなさよあらし)」とは「それだけは言ってくれるな」と言う、切なる願いにユーモラスを加えることで深刻になりすぎないようにしています。
そんなこた心得タヌキ(そんなこたこころえたぬき)
「そんなこた心得タヌキ(そんなこたこころえたぬき)」とは、「そのようなことはわかっている」と言う意味をユーモラスさを交えた表現です。