封建時代に特有の身分の差
奉公人の間にある身分の上下
NHKBS/BSプレミアム4Kで2025年4月6日から放送される「あきない世傳(せいでん)金と銀2」の時代背景は江戸時代中期です。
現代の日本では日本国憲法第14条などで身分制度は否定されていますが、当時は封建制度が当たり前で、武家でも商家でも身分の上下が厳しく定められていました。
下記の記事では男性奉公人・女性奉公人について述べたものですが、特に男性奉公人には細かく身分が規定されていました。
主筋と奉公人の間にある超えられない壁
当時は奉公人の中だけでも身分の上下にうるさいのですが、主筋と奉公人の間の関係となると、両者の間には超えがたい壁が存在するようになります。
何事も主人の言うことは絶対で、奉公人たちはどんな理不尽なことでも逆らうことはできません。例えば結婚などについては、自由恋愛の現代とは違って、当時の奉公人たちは主人の許しがなければ所帯を持つことなど決して許されませんでした。
主人と家来のけじめ
主筋がどんなにボンクラであったとしても、奉公人たちはその商家の中で働く以上、主命には逆らうことはできないのです。
江戸時代の商家は「主人と家来」の関係としてけじめをつける1つの方法として、奉公人が主筋の人たちを呼ぶときの呼び方をある敬称で呼ぶように徹底されていました。
以下は「あきない世傳 金と銀」シリーズで使われる主筋の人たちの敬称です。「あきない世傳 金と銀」は大坂天満の商家を舞台としているため、この呼び方は江戸ではなく、大坂での呼び方であることをご注意ください。
「あきない世傳 金と銀」五鈴屋の人たちの敬称
主筋の人たちの敬称
下記の表では商家の当主の夫婦を基準として、その上に先代の両親と当主に三兄弟の息子・三姉妹の娘がいる商家を想定したときの呼び方です。
呼び方 | 読み方 | 立場 |
---|---|---|
旦那さん | だんさん | 商家の当主 |
ご寮さん | ごりょんさん | 当主の妻 |
親旦那さん | おやだんさん | 当主の父親 |
お家さん | おえさん | 当主の母親 |
兄ぼんさん | あにぼんさん | 当主の長男 |
中ぼんさん | なかぼんさん | 当主の次男 |
小ぼんさん | こぼんさん | 当主の三男 |
姉いとさん | あねいとさん | 当主の長女 |
中いとさん | なかいとさん | 当主の次女 |
小いとさん | こいとさん | 当主の三女 |
以下の記事では「あきない世傳 金と銀」シリーズの中から、各呼称で呼ばれた人たちを紹介していたします。
旦那さん
商家の当主である旦那さん(だんさん)を、武家風に言い換えると「殿」や「お館さま(おやかたさま)」に相当します。
「あきない世傳 金と銀」シリーズに登場する五鈴屋で「旦那さん」と呼ばれる人物は、豊作こと四代目徳兵衛(渡辺大)・惣次こと五代目徳兵衛(加藤シゲアキ)・智蔵こと六代目徳兵衛(松本怜生)です。
主人公・幸(小芝風花)も七代目を襲名したのちは「旦那さん」と呼ばれる立場になりますが、奉公人たちからは「ご寮さん」と呼ばせることにしていました。
ご寮さん
商家の当主の妻であるご寮さん(ごりょんさん)を、武家風に言い換えると「奥方様」や「北の方様」に相当します。
「あきない世傳 金と銀」シリーズに登場する五鈴屋で「ご寮さん」とよばれる人物は、船場の小間物問屋・紅屋から四代目徳兵衛に嫁いだ、菊栄(きくえ)(朝倉あき)と、四代目徳兵衛の後添えになり、さらに五代目徳兵衛・六代目徳兵衛にも嫁いだ幸です。
親旦那さん
商家の当主の父親である親旦那さん(おやだんさん)を、武家風に言い換えると「大殿様」に相当します。
「あきない世傳 金と銀」シリーズの五鈴屋で「親旦那さん」と呼ばれる人物は孫六です。
孫六はもともと天満高島町で桔梗屋の主でしたが、高齢を理由に引退します。その際に桔梗屋の身代を全て五鈴屋に買い取ってもらい、「五鈴屋高島店」の奥座敷に居を構えて隠居します。
五鈴屋の人たちとは血縁関係はありませんが、桔梗屋を買い取った智蔵・幸夫婦との年齢関係を考慮して「親旦那さん」と呼ばれることになります。
お家さん
商家の当主の母親であるお家さん(おえさん)を、武家風に言い換えると「大奥様」に相当します。
「あきない世傳 金と銀」シリーズの五鈴屋で「親旦那さん」と呼ばれる人物は富久です。
富久は15才の時に萬作こと二代目徳兵衛に嫁いだ女性です。栄作こと三代目徳兵衛に店を継がせて「お家さん」となったものの、栄作夫妻は豊作が5才、惣次が4才、智蔵が1才の時に相次いで亡くなり、四代目徳兵衛が家督を相続するまでは、番頭・治兵衛(舘ひろし)の後見を得て五鈴屋を切り盛りします。
四代目徳兵衛が跡を継いだ後も兄弟間での諍いが絶えず、富久はお家さんとして五鈴屋の中で権力をふるうことになります。
ぼんぼん(兄ぼんさん・中ぼんさん・小ぼんさん)
商家の当主の息子であるぼんぼんを、武家風に言い換えると「若殿様」に相当します。
「あきない世傳 金と銀」シリーズの五鈴屋で「ぼんぼん」あるいは「ぼん」と呼ばれる男性は、惣次と智蔵です。惣次と智蔵は三代目徳兵衛との関係で、奉公人たちからは「惣ぼんさん」・「智ぼんさん」と呼ばれます。
いとさん(姉いとさん・中いとさん・こいとさん)
商家の当主の息子であるいとさんを、武家風に言い換えると「姫様」に相当します。
「あきない世傳 金と銀」シリーズの五鈴屋で「いとさん」と呼ばれる女性はいません。かつて四代目徳兵衛の最初の妻であった菊栄船場の小間物問屋・紅屋の末娘でした。
そのため菊栄が嫁入りする前は紅屋の中では「こいとさん」あるいは「こいさん」と呼ばれていたと考えられます。