あきない世傳金と銀シリーズの賢輔とは
賢輔は「五鈴屋江戸店」の開業に参画
NHKBS/BSプレミアム4Kで2025年4月6日から放送される「あきない世傳(せいでん)金と銀2」の大坂天満編と江戸編に通して登場する人物として、佐久間悠さんが扮する賢吉(けんきち)という男性奉公人がいます。
元々、賢吉は「五鈴屋本店」の丁稚でしたが、五鈴屋が江戸に開店するための準備要員として日本橋坂本町にある古手商・「近江屋江戸店」に出向し、「五鈴屋江戸店」の開業とともに18才で丁稚から手代に昇進した奉公人です。
「賢吉」から「賢輔」に改名
賢吉は手代から支配人に昇進するとともに、名を賢輔(けんすけ)と改めます。大坂の商家では丁稚から手代に昇進すると、名前の一部である「吉」の字を「七」の字に取り替えるという慣わしがあります。
しかし江戸の商家ではそう言った習慣はありません。そこで五鈴屋七代目の当主である幸(小芝風花)は、改名を本人に任せたところ、賢吉は賢輔と名を改めます。
賢輔という名前は、自分が五鈴屋へ奉公へ上がる前に自分の親からつけられたものです。
奉公人上がりの賢輔に巡ってきた「当主の座」
八代目当主の候補に上がった賢輔
「あきない世傳(せいでん)金と銀」の主人公・幸は五鈴屋の七代目当主であると言っても、その出身である大坂天満には「女名前禁止」の習慣があり、一時的に五鈴屋の家督にいることを認められているに過ぎません。
いわば幸は次の当主へ繋ぐための「中継ぎの当主」という存在に過ぎません。幸はどこかの男性と養子縁組し「五鈴屋徳兵衛」を名跡を継がせて天満組呉服仲間に引き継ぎを認めてもらわなければなりません。
その養子候補として上がったのが手代の賢輔でした。このとき賢輔は若干21才。
身分制度の垣根を越えるチャンスを得た賢輔
現代の日本では、創業したてのベンチャー企業ではなく何代も続いた老舗企業で、21才の若者が会社の社長となることは、相当珍しい部類に入ると考えられます。
しかし年齢の点を比較すると20代前半の男性が、商家の家督を継ぐことは決して珍しいことではないと考えます。当時の男性は、14~15才で元服(成人)することが普通であったことを考えると、賢輔のような若者が商家の当主であることは決して珍しいことではないでしょう。
江戸時代と令和の現代と比べて、賢輔の八代目当主への抜擢が稀有だったのは、奉公人が主筋となることできるという、「身分制度の壁」を超えたことでした。
優れた奉公人である賢輔
主人と奉公人という封建的な関係について
現代の日本では日本国憲法をはじめとして様々な法律によって、封建的な身分制度が否定されています。
- 日本国憲法第14条(平等権の保障)
- 日本国憲法第18条(自由権の保障)
- 労働基準法第3条(労働契約の自由)
- 労働基準法第16条(労働契約解除の自由)
- 民法第90条(主従関係の否定)
- 民法第521条(契約の自由)
しかし「あきない世傳金と銀2」の時代背景となっている江戸時代では、もちろんこういった法律も存在しなければ、考えもありません。
奉公人は分を撒きまえて主人の側に控えて、たとえ独立が叶ったとしても、主人を立て続けなければならないという運命にあります。
にもかかわらず賢輔は、五鈴屋の八代目当主となることで主筋という絶対的な権利を得るチャンスが巡ってきたのです。
「ただ金銀が町人の氏系図になるぞかし」
「ただ金銀が町人の氏系図になるぞかし」とは、江戸時代中期の大坂の戯作者である井原西鶴が、著作の「日本永代蔵」で書き残した一文です。
当時は武家も商家もお家の存続を第一に考えてましたから、跡取りを残すことは一家を挙げての一大プロジェクトでした。
ですから武家も商家も格下の家や、時には奉公人からも養子を迎えることも決して珍しかったことではありません。しかし商家の場合、井原西鶴が残した言葉にあるよう、「金銀を上手く積み上げることができる」つまり「商売の才覚がある」人物に跡を継がせるようにしないと意味はありません。
そう言った意味で、賢輔は七代目当主である幸や周りからほとんど異論が出ないほど認められた若者なのです。
現代的な思考の持ち主であった幸
「主命」という強権発動もできた幸
ただ賢輔本人は「身に余る」として、七代目当主の幸から打診されても固辞。また賢輔の父親で、かつて「五鈴屋の要石」と言われた治兵衛(舘ひろし)も息子が五鈴屋の主となることを渋ります。
日本国憲法も民法もない時代ですから、幸は当主としての強権を発動することもできます。例えば幸の妹・結(長澤樹)と結婚をすることを「主命」として、八代目当主にさせてしまうという手も使えます。
現代の日本では当人の合意のない結婚は無効(日本国憲法第24条・民法第742条・同第754条)ですが、当時は「主命」さえあれば合法です。
幸は賢輔の意思に任せるが…
ただ幸は賢輔を八代目当主とするための根回しはしたものの、最終的に五鈴屋の後継者となるかどうか、また結と結婚するかどうかも当人たちの意思に任せます。
こう言った幸の考え方は「お家第一」とする封建主義というよりも、現代的な自由放任主義と言えるでしょう。
しかし不幸にも小説版の「あきない世傳金と銀」(八)瀑布篇では、その幸のより現代的な考え方が五鈴屋と結の身に危機をもたらすことが明らかになります。