あきない世傳金と銀 枡吾屋と音羽屋
枡吾屋忠兵衛(ますごやちゅうべえ)とは
NHKBS/BSプレミアム4Kで2025年4月6日から放送される「あきない世傳(せいでん)金と銀2」の江戸編に登場する人物として、高嶋政伸さんあが扮する枡吾屋忠兵衛(ますごやちゅうべえ)という男性がいます。
枡吾屋忠兵衛は日本橋屈指の大店で本両替商(ほんりょうがえしょう)・枡吾屋の主です。主人公で五鈴屋七代目当主の幸(小芝風花)は、菊瀬栄次郎(風間杜夫)から招かれ江戸の恵比寿講の風情を見る際に立ち寄った薬種商・小西屋で、妹の結とともに枡吾屋忠兵衛に偶然出会うことになります。
ドラマでは「音羽屋」から「枡吾屋」に
なお「あきない世傳金と銀2」の原作小説「あきない世傳金と銀」(八)瀑布篇では、結を見染める本両替商として、音羽屋忠兵衛(おとわやちゅうべえ)という男性が登場します。
おそらく原作の小説をドラマ化するにあたって、音羽屋忠兵衛は「枡吾屋忠兵衛」と名前を改められたと考えられます。
江戸時代の両替商について
本両替(ほんりょうがえ)と銭両替(ぜにりょうがえ)
ところで枡吾屋忠兵衛が営んでいる本両替商とはどのような商売でしょうか?
ひょっとすると時代劇ドラマをよく見られている方の中には「両替商(りょうがえしょう)」という言葉を聞いたことがあり、「両替商とは現代の銀行のような商売」ということをすでにご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
本両替はまさに現代の銀行のような業務を一手に引き受けている両替商でしたが、その一方で銭両替を本分とする両替商も存在しました。
本両替とは
本両替とは金貨・銀貨間の貨幣の等価交換を行う両替商です。その顧客は幕府・大名・裕福な商人で規模の大きい相手で、両替業務だけでなく、送金業務の為替や貸付(大名貸し)なども行っていました。
本両替商は幕府から公許された株仲間を結成して冥加金という名の一種の税金を納めていました。しかし幕府や大名から「御用金」や「上納金」という名目で、返済のあてがなくかつ拒否することもできない献金を求められることもしばしば。
本両替商にとってこうした献金そのものは、ありがた迷惑の「赤字事業」でしたが、代わりに「苗字帯刀」をすることが許され、社会的信用度や社会的地位ははとても高かかったそうです。
本両替商の例
- 三井両替店: 三井財閥の前身、呉服商から金融業へ発展
- 鴻池両替店: 大坂を拠点として大名貸しを行った
- 住友両替店: 銅鉱山の経営や算出される銅の取引を背景に金融業を展開
銭両替とは
銭両替とは金貨・銀貨と銭貨間の等価交換を行う両替商です。その顧客は主に庶民であり、彼らが商売をしやすいように、日用品や食料品の決済などに使う銭貨を供給していました。
一両を四千文の銭に交換する場合、銭両替での切賃(手数料)では十二文(約360円)が必要であったと言われています。また銭両替は小規模な商人のために、貸付業務も行っていたようです。
なお銭両替には長屋や市場の側で営業していましたが、本両替のような株仲間はなく自由競争で生き残る商売でした。
銭両替商の例
- 安田善次郎: のちの安田財閥の前身。日本橋小舟町の四つ辻で戸板に小銭を並べて銭両替をしていた
両替商と一般的な商人の関係について
小西屋は音羽屋のために何度も「五鈴屋江戸店」へ
「あきない世傳金と銀」(八)瀑布篇では、史実がそうであったように、本両替商である音羽屋(枡吾屋)は、薬種商の小西屋は音羽屋から資金を融通をしてもらっていて、小西屋にとって音羽屋は頭が上がらない存在です。
そのため小西屋で行われた恵比寿講のために、江戸紫の鈴紋染めの反物を納めにやってきた幸と結のうち、妹の結の方を見染めた音羽屋忠兵衛に頼まれて、縁組のための仲人に何度も遣わされることになります。
両替商に逆らえない一般の商人
「あきない世傳金と銀」(八)瀑布篇の設定では、音羽屋忠兵衛はすでに先妻を亡くした46才で、結が未婚の26才です。
世間的な評価では「いい年をこいたおっさんが小娘を見て色ボケをした」と見下されて、「小西屋は損な役割を押し付けられた」ということになっています。
しかし、別の見方をすれば、当時の本両替商は社会的立場が圧倒的に高く、裕福な商人であってもその意向には逆らえなかったというエピソードでもあると言えるでしょう。
音羽屋と結のその後
音羽屋忠兵衛が、結を見染めたその後の顛末を書き加えておくと、ニ度目の仲人の使者として、小西屋が「五鈴屋江戸店」に遣わされたとき、幸は何事であっても物事を丸く収めようとする大坂商人の信条に反するくらい毅然とした態度で、音羽屋との縁組を断ります。
幸は手代の賢輔(佐久間悠)と結婚したいことを知っていたからです。しかしその賢輔はどうやら別に慕う女性がいるようで、結からのプロポーズを拒否。そのことをショックに感じた結は「五鈴屋江戸店」を去り、音羽屋と五鈴屋の関係が一気に変わることになります。